読書日記 『出口のない海』

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    出口のない海
    出口のない海
    横山 秀夫

     人間魚雷「回天」。そんな兵器があるということは知らなかった。簡単に言うと、人間が魚雷の中に入り込み、操縦することで目標とした敵艦を撃破するための兵器である。むろん、操縦する者は助かることはなく、海の神風特攻隊とでも言えばいいのであろうか。
     神風特攻隊ほどの知名度はないが、こんな非人間的、非効率的な兵器が実際に存在していたらしい。そして、本作では主人公・並木を通し、特攻兵器へと乗ることを決意した若者の心境の変化を鮮やかに描いている。死を意識することなどほとんどない現代では、死が身近に存在し、自ら死へと向かう時代があったというのは想像ができない。が、それはたった60年前にはそんな現実が存在していたのである。

     本作は、横山秀夫の作品としては、選ばれた題材が非常に特異なものである。今まで僕が読んできた作品は、作者の経験に基づいた新聞記者や警察関係の者が主人公であった。本作は時代も、主人公も今迄とはまったく異なるといってもいい。
     しかし、横山秀夫の得意とした、言葉では表現できない人間の心境の変化を見事に描ききっているのではないであろうか。それは、最後の並木の心境の変化、北の心境の変化を読めば、人間の心境は決して言葉だけでは表現げきないという事実にもぶち当たる。しかし、言葉では表現できないものでも、読んでいるものに対して何等かを伝える力を横山秀夫の文章から伝わってくるのである。そこが横山秀夫の凄いところなんだろうな。

     本作と比べると、『クライマーズ・ハイ』の方が断然完成度は高いと思われます。でも、完成度云々関係なく、この作品は読んだ人になんらかの感動を与えるはず。いい作品は、理屈なくいいんでしょうな。
     この作品の映画も来月から上映されるようです。こういった作品を映画で表現するのは非常に難しいと思いますが、一体どのような作品になるのか楽しみです。

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    著者:横山秀夫 「回天」。発射と共に搭乗者の死を意味する人間魚雷。第2次大戦末期
    • たこの感想文
    • 2006/08/15 2:24 AM
     今日の本です。戦争青春小説です。今年の9月16日から映画が公開されます。
    • しばまさ☆読書日記
    • 2006/08/15 8:42 AM
    タイトル:出口のない海 著者  :横山秀夫 出版社 :講談社 読書期間:2004/11/29 - 2004/11/30 お勧め度:★★★★ [ Amazon | bk1 ]+++++ 甲子園の優勝投手、並木浩二は、大学入学後、腕の故障を克服すべく、"魔球"の完成にすべてをかけていた
    • AOCHAN-Blog
    • 2006/08/15 6:14 PM
    横山秀夫の「出口のない海」を読みました。 人間魚雷「回天」。発射と同時に死を約束される極秘作戦が、第二次世界大戦の終戦前に展開されていた。ヒジの故障のために、期待された大学野球を棒に振った甲子園優勝投
    • はぐれ雲
    • 2006/08/15 9:46 PM
    出口のない海 今回は戦争モノと、新たなジャンルに挑戦…ではなく、著者が1996年にノベルズとして出した旧著を全面改稿したもの。 終戦真近、万が一にも生き残る可能性もない人間魚雷に乗ることになる主人公。何の為に死ぬのか…理由付けをしたい。そしてまだ夢
    • みかんのReading Diary♪
    • 2006/08/16 9:39 PM
    出口のない海 横山秀夫著 Timebook Townにて420円也。 >あらすじより 甲子園の優勝投手・並木浩二は大学入学後、肘を故障。もう野球はできないという周囲の諦めの目をよそに、新しい変化球の完成に復活をかけていた。だが、日米開戦を機に、並木をはじめとするナイン
    • 読書の時間
    • 2006/08/19 3:20 AM
     「出口の無い海」(横山秀夫:講談社文庫)を読んだ。市川海老蔵主演で9月16日から公開される映画の原作である。  読後感は、非常に重い。 太平洋戦争末期、追い詰められた軍部は、とんでもない愚挙にでる。特攻作戦である。空の戦闘機による特攻だけでなく、海
    • 風と雲の郷(旅と読書と資格と・・)
    • 2006/08/27 7:49 PM
    出口のない海横山秀夫著出版社 講談社発売日 2004.08価格  ¥ 1,785(¥ 1,700)ISBN  4062124793人間魚雷「回天」。海の特攻兵器。脱出装置なし…。甲子園の優勝投手は、なぜ、自ら「人間兵器」となることを選んだのか? 96年マガジン・ノベルス・ドキュメン
    • 活字中毒日記!
    • 2006/09/18 11:58 PM

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